制限力 1

「制限力 1」

これは今までいろんな場所で何回も書いてきたことなんですが、なかなか大事なことだと思いますので今日もまた書いていきます。

大学生の頃、和風の居酒屋でアルバイトをしていました。大学は島根大学です。日本海の魚がおいしい。アルバイト先は、マスターが関西で修行をされた後に開店したお店で「ぎおん」といって、腕の良い板前さんが料理し、値段も安いというので大変繁盛していました。

アルバイトはほとんど島根大学の学生。現役のアルバイトが引退するときに、「こいつならいいか」と見込んだ後輩を連れてくるという形で、とても良いファミリーになっていました。マスターもママも学生をとてもかわいがってくれて、この店の3月に行われる卒業生の「追い出しコンパ」が、一年を通じて最も号泣する日、というようなお店でした。

夕方は大体6時くらいからお客さんが入ってきて、7時くらいになると満員、9時ごろに一旦お客さんが引き、12時閉店までにはちらほらと追加というのがいつものパターンでした。

ある日の営業日、その日は夕方の5時ごろからお客さんが入り始めて、お客さんがはけたらすぐに次の方が入ってくるという感じで、全く途切れる時間帯がありませんでした。

開店から閉店まで、全く途切れず、たぶん入り切れずに断ったお客さんもあったように思います。繁盛しているお店でしたが、その日の「入り」は異常でした。

そうなってくると、いろいろな追加の仕事が増えてきます。お客さんが出ていかれて、部屋はすぐに片付けないと次のお客さんが待っています。洗い物がどんどん増えていきます。一度炊いたご飯もなくなりそうだし、温かいおしぼりも補充しないとなくなってしまいます。

よくスポーツ選手が、ものすごく重要な試合の中で「ゾーンに入る」と表現することがありますが、私もその日居酒屋の外回りという仕事の中で、明らかに「ゾーン」に入っていたのです。

例えば、お座敷のテーブルの上にある陶器の醤油さし。忙しい最中醤油が切れていると、慌てて追加しなければなりません。手が離せない状況だとお客さんを待たせてしまうことにもなります。

普段ならそんなこと思いつきもしないのに、大急ぎで座敷を片付けつつ、醤油さしをチェックして残量を確認する、爪楊枝を確認する、七味を確認する、一例をあげればそんなことがどんどん頭に浮かんできて、ものすごく有能なアルバイトだなと自分で感心するくらいでした。俺ってこんなに働き者だったのだと感動していたという方が近いです。

目の前に生まれてくる「今すぐやらなくてはいけないこと」を超高速でやりながら、なおかつ予想されるトラブルを回避するための行動という予測をそこに加えて、これまた超高速で合わせていくということをしていたわけです。

多分その日は、通常の閉店時間の12時を超えてもお客さんが途切れなく続く日でした。

例えば近くにある、天神さんのお祭りだとか、宍道湖で花火大会があるというような日だと、お客さんがたくさん来るということが予想されるので、バイトを一人多めにシフトに入れるというような対応をします。

でも、その日の「猛烈大繁盛」というのは、特にそういったイベントがあるわけでもなく、予想外で、バイトの人数も通常の人数でした。だからこそ、そういう「ゾーン」体験ができたのでしょう。(つづく)

 

生活整体研究家
進化体操と和の体育

津田啓史 拝