津田啓史のウイルス探求中 その5

【津田啓史のウイルス探求中その5】

この連載は、実態もよく知らないでただ恐れるのもしゃくにさわるから、できるだけ幅広く実態や特性を知って、その上でただしく警戒すべきは警戒しましょう、という意味合いで書いています。私自身が知りたいのでいろいろ調べていき、せっかくなのでみなさんにも聞いてもらおうというわけです。

7月21日の記事に「基本的に発症してからのことが研究されて、感染しているけれども無症状の人を対象にした研究が深く掘り下げられているわけではないのだ」ということを書きました。

書いた二日後ぐらいに神戸大学の岩田健太郎先生(ダイアモンドプリンセス号に乗り込んで、これは感染対策が全然できていません、ということをyoutubeで警鐘を鳴らして話題に)の「感染症は実在しない」(インターナショナル新書)という本を読みましたら、関係する話がたくさん書いてありました。(感染症が実在しないわけではないのですが、思っているものとは違いますからね、という本でした)

感染症というのは細菌が引き起こすと思われていた時代がありましたが、インフルエンザはウイルスですから顕微鏡では見つかりません。そのうちに細菌よりもはるかに小さいウイルスというものが引き起こしているということが分かり、原因不明なものは「たぶんウイルスのせいだ」ということになりました(意訳)。

そのうちにウイルス感染しているかの簡易診断キットができました。そうするとインフルエンザというのはインフルエンザウイルスによって「高熱、体中が痛い、のどが痛い、寒気がする」が引き起こされるものとされていたのに鼻かぜ程度の人もいれば、無症状の人さえ見つかってしまうということになったそうです。流行時には、重症から軽症、実は無症状もいたということ自体は、簡易診断キットが生まれた時から実はわかっていたことだったのですね。

さらに感染症対策の最前線にいた岩田先生は2009年の5月に「新型インフルエンザ」が流行った時には、新型インフルエンザに感染している人を探すためにPCR検査(このころからあったんですね)を大量にしていました。流行が大したことがなかったため、新型インフルエンザに感染している人はほとんど見つかりませんでした。ところが、5月ですから、すでに流行は終わっているはずの季節性のインフルエンザの人が「出るわ、出るわ」たくさんPCR検査で陽性になりました。さらにやっかいなことに、それらの人は簡易診断キットでは陰性だったのですね。

つまり世間的には「季節性インフルエンザの流行は収束している」という評価でなんらおかしくない状態で、季節性インフルエンザの感染している(検査陽性)という人がたくさんいたということなんですね。

「新型コロナは無症状の感染者がいるからやっかいだ」なのではなく、無症状の感染者がいることの方が実態で、発症した人だけを見ていたからわからなかった、という前々号のお話しの裏付けのお話しでした。

そう思って視野を広げると「そういえば」という話があります。

こういう仕事をしていますから人よりは体調について話題にすることが圧倒的に多い。すると「実はヘルペスで」という人が時々います。神経の分布領域にそってただれて痛い、という症状の病気です。それで、痛い、大変、病院だ、ということで病院に行くと医師の説明が

「もともとヘルペスウイルスが神経に沿って体の中にいるんですよ。それが体調が悪くて免疫が下がってくると活性化して発症するんです」

 

私たちは思っているよりも「まっさら」な身体ではなく、けっこういろんなものに感染しっぱなしなのかもしれません。その健康観をどうしていくかというのは、何十年がかりで世の中の常識を少しずつ変えていくしかないような話です。一方で、「無症状の感染者からの感染をどう防ぐか」というような「今日ただいま、今すぐの課題」に関しても、ちゃんと提案されている先生もおられました、のお話は明日に。