東日本大震災でのボランティア活動記録 5月5日 祭りで復活石巻(後編)

緊急事態宣言の発出を受け、5月11日までは休業を決定し、現状ではさらに延長もやむをえないと考えています。理由は大阪府の医療体制のひっ迫具合です。

今日も、3月末に引き続き、10年前の東日本大震災でのボランティア活動記録の5月5日分を転載します。

毎年5月5日が春の例大祭だった神社。がれきに埋もれて絶対に無理だと思われたのを、ボランティアたちが片付け「もしお祭りがやれたら地元の人がちょっと元気になれるかもしれない」と参道をボランティアの炊き出しで埋めた2011年5月5日の石巻の神社でのお祭り復活の実話。後編です。

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『5月5日 祭りで復活石巻(後編)』

11時になった。本殿では神事が始まる。太鼓を控え、静かにする。

ひーさんが「みこし会」のガムテープ表示をつけた若い衆数人と引き合わせてくれた。なぜここに太鼓と笛があるのかの経緯をさくっと説明し、ぜひ地元の人に叩いてもらいたい、吹いてもらいたい旨をお話する。

「小太鼓はないんかあ。」なんて声もあって、ちょっと、なんかその気を感じて嬉しいのである。

石巻ボランティアセンターの中核になっている地元社会福祉協議会の、中堅行動隊長の阿部さんら3人ほどの方々も専修大学から駆けつけて来られた。

「すっごい人ですね~」

阿部さんは、横に座り込んで砂遊びをしている5歳ぐらいの女の子の方を振り返って言った。

「津田さん、見てみてよ、ここで子どもがお尻をおろして遊んでるでしょ。ほんの少し前までがれきとガラスで。考えられないことだよ」

本当はこんなふうに聞こえた。

「見でみっさ。こっごでこンどもが、おすりおろすてってや。前ぇわぁ、ガラスとぐぁれきでぇ、くわんがえられねえことだべさ」
※注 実際の音声は二つの文章の中間あたりのニュアンスです。

今は、専修大学のボランティアセンターに詰めきり、時として長靴・雨合羽に身を固め、泥出し部隊やがれき撤去部隊を率いて出撃する行動隊長阿部さんであるが、実は雄勝地区の人である。雄勝地区は石巻市であるが、原発のある女川町の北どなりで、東側に突き出た半島部一帯を指し、「すずり」で有名な地域である。

当然津波の被害を真正面から受け、その中心部の深く切れ込んだ湾内には、湾内に押し寄せた津波が集合して市街地から谷を駆け上がり、町そのものが壊滅している悲しい地域である。

3月10日までは、社会福祉協議会の職員として、寝たきり・独居・痴呆のお年寄りの家などを訪問し、垂れ流しのおしっこを正座で避けながら「んだ、んだ、そうだべ」と相づち打っていた人である。

祭の後で誰かに聞いた話だけれど、おそらく祭の前日あたりに阿部さんが大宮神社に来て、あまりに片づいているその光景に泣いていたという。この話は「ないしょだけど」と言って聞いた話だけど、誰に聞いたか忘れたので書いちゃった。

そのないしょの話を教えてくれた人は、ようするに「ボランティアたちが、本当にいいのかな、祭なんかしちゃっていいのかな、お節介じゃないかな、早すぎるんじゃないかな」とか自問自答しながらこぎ着けた祭で、地元の阿部さんが感激して泣いてくれたことが、とても嬉しかったということなのである。

あっちこっちの炊き出しを食べ歩きしながら、本当にお祭り気分で歩いていると、

「津田さん、太鼓が始まる!」と呼び戻された。

本殿前に戻ると、もちろん祭装束ではなく、長袖ポロシャツとかジャージとかの普段着の男衆ふたりの太鼓叩きの方が、太鼓の前にバーンと、本当にバーンと構えていて、その後には、男女一組の笛吹お二人がスタンバイ。

先ほどお話をした「みこし会」の人たちが、連絡をとって探して連れてきてくれた人たちだ。

この太鼓というのは、祭ばやしの太鼓ではなく、石巻の辺り一帯に伝わる「獅子舞」の太鼓である。獅子舞というと「正月」のイメージがあるが、大指では「春に使ったら、後は使わない」という言い方をしていたから正月ではないらしい。地区地区で少しずつ違うというから、その土地、その土地でずっと代々伝えられてきたものなんだ。

私の理解では、なまはげみたいに各家を獅子とお囃子と太鼓が回っていって、「いい子になるか~」みたいな感じで、獅子頭で咬んでいくと、どうもそういうものと想像しているけれど、そうなるとこの大きい太鼓はどうやって引っ張っていくんだろう。

炊き出し屋台や青空整体や青空美容室や子どもコーナーで、祭の周辺はかなりそれらしくなったけれども、それらは全部「よそ者」のボランティアの仕掛けである。

神社の宮司さんは、本来の祭の神事をやって下さり、神様ごととしての核はちゃんと守られた。そこに、なんとか地域の方々がされるものを加えてほしかったのだ。

来た、来た、太鼓が来た。

さあ、始まった。お囃子の笛が鳴る。太鼓がかぶる。もちつきに合わせてどこどこ叩いていた私の太鼓とはものが違う。気合いが違う。そろい具合が違う。

思わず飛び跳ねてしまう筆者であった。

一緒に太鼓を運んできた吉田くんとみ~やんも、横で感激である。

ズババン、ズババン、バン、ババン、ババン

おっと、横面に皮を持ってきたオーソドックスな置き方の太鼓を、なにやら斜めに置き換えた。ジャージの方の男衆がバチを構えて正面に立つ。ソロ太鼓だ。右に左に縦横無尽。打って、叩いて、時に大きく腕を広げて見得を切る。

かっこいい!

大指林業センターの佐藤会長に電話をかける。

「昨日、太鼓をお借りした津田です。聞こえますか?」

携帯電話を太鼓の方に突き出す。

「土地の方が出てくださって、笛も太鼓も使わせてもらってます。ありがとうございました!最高です。かっこいいです。」

よそ者が、何とか外面だけは間に合わせたお祭りだ。でもやっぱりそれは違う。地元の人にやってほしかった。いつもの祭のようにやってほしかった。獅子舞の太鼓は、祭の太鼓ではないけれど、でもこの土地で代々受け継がれて来たものだ。

みこし会の人たちが、ひーささんに言ったそうだ。

「来年を見ててくれ、必ず復興させて、復活させて、本当のここの祭を見せてやると」

(実際は宮城弁なので、かなり意訳)

太鼓が終わった。痛いぐらいに拍手をした。

午後からは、午後から出店の「八ヶ岳ピースワーカーズ」のおでんを楽しみ、宮司さんの娘さんの腰痛を本殿内で調整する。(劇的に好転したらしい)

弁護士さんが「弁護士です、無料で法律相談承ります」という表示をつけて歩いている。この弁護士さんは、イベント広場で「法律相談紙芝居」をやっていた。

ぎっしりと人が詰めかけた訳ではないが、きっとこの祭りに来ている方々の中に、誰に相談していいか途方に暮れている人もたくさんおられるだろう。その人の目に、この弁護士さんの「無料相談します」の看板が目にとまることを祈る。

イベント広場では、鍼灸師はなちゃんと、整体チームの現リーダータイマッサージのナベちゃんが「ファイアーダンス」を披露している。採澤君が

「整体チームのメンバーは、何でこんなに芸があるんだ~」

と感極まって叫んでいる。同感だ。

何度か現場で会い、話をするようになった関西テレビのカメラマンとアシスタントディレクターがいたので、(たけのこの里のカメラマンとは別人)青空整体にお招きして整体する。座り姿勢で肩や首がすっかり楽になったというので、うつぶせで本格的に背骨の調整をする。またいでしっかりと押さえた状態で、まわりにいる整体チームメンバーやお隣りの足湯隊のメンバーに叫ぶ。

「みんな、携帯の動画でこの場面をとるんだ!」

うつぶせの横に社名入りのテレビカメラがしっかりと置いてあるから、職業・身分は一目瞭然だ。

「ふふふ、旦那、あなたの整体を受ける映像をしっかりと撮らせてもらいましたぜ。関西テレビの番組で、もしもいいかげんな被災地報道をしはったら、【YOUTUBE】に『被災者を押しのけて整体を受ける悪徳テレビカメラマン』というタイトルを付けてアップしまっせ。へっへっへ」と脅迫しておいた。

4時頃になると、炊き出し隊やゲームなどがどんどん閉店していくので、にぎわっているのは本殿裏の足湯・整体・足つぼ・美容理容コーナーだけとなってきた。ボランティアのみんなで片づけをする。

午後五時。残っている祭り裏方ボランティアスタッフ全員が集合。宮司さんのあいさつをお聞きし記念撮影。今ここにいるのはほとんどがよそ者ばかり。来年のお祭りには都合をつけて来たいなと思う。そして普通の、普通の今までどおりの地域のお祭りを見たいなと思う。

(この記録の全編をワードのデータかA4プリントアウトで販売します。詳しくは下記をご確認ください。)


祭りが終わりボランティアで集まった時。
左から2人目が筆者。背景はまだ瓦礫の山。2011年5月5日

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新書版一冊分の文字数で書いた2011年3月末から5月GWまでの津田が出会った「本職を生かしたボランティア活動」の方々と整体チームの記録です。

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生活整体研究家
進化体操と和の体育

津田啓史 拝